あいち相続広場の野々山です。
「自社株を子に承継したいが、議決権はすぐに渡すべきか迷っている」「会社を長男に任せたいが、きょうだいの公平性も気になる」「信託を使えば解決できると聞いたが、受託者に任せるのは不安」――。事業承継を考える経営者の方から、このようなご相談をいただくことが増えています。
本記事では、「受託者」という役割に焦点を当て、特に自社株信託や事業承継に関わる場合に重要となる受託者の責任・義務・選び方を徹底的に解説します。
対象は、特に未上場会社を経営するオーナー経営者の方や、そのご家族、顧問税理士と一緒に承継設計を考えている方です。自社株の承継に悩んでいる経営者の方は、ぜひ最後までお読みください。
受託者は、自社株信託の仕組みを支える最重要ポジションです。では実際に誰を受託者に選ぶべきなのでしょうか。大きく分けて「家族」「第三者(専門家)」「法人」の3つの選択肢があります。それぞれの特徴を整理してみましょう。
最も身近で検討されやすいのが「家族受託者」です。例えば長男を受託者とし、議決権を段階的に承継させる方法です。
メリット
リスク
つまり「家族の絆」が強い場合は有効ですが、感情的な対立が起きやすい家庭環境ではトラブルの火種になることもあります。
次に、司法書士・行政書士・税理士など、専門家を受託者に選ぶ方法です。
メリット
リスク
専門家受託者は「公平性」と「安定性」を重視する場合に向いています。特に、兄弟姉妹間で利害調整が必要なケースでは有効です。
信託会社や信託銀行など「法人」を受託者とする方法もあります。
メリット
リスク
法人受託者は「資産規模が大きく、複数世代にわたる承継を設計したい」という場合に適しています。
自社株信託の活用において、特に注目されるのが「受益者連続信託」です。これは、受益者を複数世代にわたって指定できる仕組みです。
例えば次のような設計が可能です。
こうした設計により、単なる一代限りの承継にとどまらず、複数世代にわたる株式管理のルートを確保できます。
「受益者連続条項」を使えば、議決権を世代ごとにコントロールできます。たとえば次のように設計すれば、株式の流出を防ぎつつ、円滑な承継を実現できます。
通常の遺言や贈与では「一度に移転」しかできませんが、信託を使えば「順番」を契約でコントロールできるのです。
Q. 自社株が信託されていると、金融機関は融資を渋るのでは?
A. 契約内容が明確であればむしろプラス評価になる場合もあります。特に専門家や法人が受託者の場合、「株式の管理体制が安定している」と判断される傾向があります。
Q. 取引先からはどう見られる?
A. 取引先は「誰が意思決定権を持っているか」を重視します。受託者・指図権者の体制が明確なら、むしろ安心感につながります。逆に曖昧なまま承継が進むと、「内部で揉めているのでは」と不安視される可能性があります。
自社株信託は強力なツールですが、設計を誤ると税務署から否認されるリスクがあります。特に注意すべきポイントは次のとおりです。
信託契約の設計には、民法・信託法だけでなく税法の知識が不可欠です。そのため、顧問税理士や弁護士と連携し、契約書や運用実態をきちんと整えることが必須です。
このチーム体制を組むことで、税務否認リスクを最小限に抑えられます。
事業承継を円滑かつ公平に進めるためには、受託者の選定と信託設計が成否のカギとなります。家族や専門家、法人それぞれの特徴を理解し、自社株信託を戦略的に活用することが、オーナー経営者にとって最も安全で確実な方法です。
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