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コラム
2025.8.25

~自社株信託と事業承継における受託者選びのポイント~③

~自社株信託と事業承継における受託者選びのポイント~③

あいち相続広場の野々山です。

「自社株を子に承継したいが、議決権はすぐに渡すべきか迷っている」「会社を長男に任せたいが、きょうだいの公平性も気になる」「信託を使えば解決できると聞いたが、受託者に任せるのは不安」――。事業承継を考える経営者の方から、このようなご相談をいただくことが増えています。

本記事では、「受託者」という役割に焦点を当て、特に自社株信託や事業承継に関わる場合に重要となる受託者の責任・義務・選び方を徹底的に解説します。

この記事を読むと、次のことがわかります

  • 受託者の基本的な役割と法律上の義務
  • 自社株信託における受託者の選択肢(家族/第三者/法人)
  • 善管注意義務や忠実義務といった受託者の責任
  • 受益者連続信託による事業承継の具体的設計例
  • 金融機関や取引先への影響と対策
  • 税務上の留意点と否認リスク回避策

対象は、特に未上場会社を経営するオーナー経営者の方や、そのご家族、顧問税理士と一緒に承継設計を考えている方です。自社株の承継に悩んでいる経営者の方は、ぜひ最後までお読みください。

後編(拡充版・約2360字)

受託者の候補と特徴(家族/第三者/法人)

受託者は、自社株信託の仕組みを支える最重要ポジションです。では実際に誰を受託者に選ぶべきなのでしょうか。大きく分けて「家族」「第三者(専門家)」「法人」の3つの選択肢があります。それぞれの特徴を整理してみましょう。

家族を受託者にする場合のメリット・リスク

最も身近で検討されやすいのが「家族受託者」です。例えば長男を受託者とし、議決権を段階的に承継させる方法です。

メリット

  • 信頼関係が築かれているため安心感がある
  • 報酬を支払う必要がなく、コストを抑えられる
  • 経営の実情をよく理解している

リスク

  • 他の兄弟姉妹が「不公平だ」と感じやすい
  • 家族内の対立が表面化すると、受託者の立場が揺らぐ
  • 専門知識が不足しており、契約通りに配当や議決権を運用できない恐れ

つまり「家族の絆」が強い場合は有効ですが、感情的な対立が起きやすい家庭環境ではトラブルの火種になることもあります。

第三者(司法書士・行政書士等)を受託者にする場合

次に、司法書士・行政書士・税理士など、専門家を受託者に選ぶ方法です。

メリット

  • 中立的な立場で透明性が高い
  • 専門知識に基づき、契約通りに運用できる
  • 金融機関や取引先からの信用度が増す

リスク

  • 報酬が発生する(契約規模や内容によって年数十万円~)
  • 家族の思いに100%寄り添えるとは限らない

専門家受託者は「公平性」と「安定性」を重視する場合に向いています。特に、兄弟姉妹間で利害調整が必要なケースでは有効です。

法人受託者を選択する場合の留意点

信託会社や信託銀行など「法人」を受託者とする方法もあります。

メリット

  • 組織として継続性が確保される
  • 高度なガバナンス体制があるため安心感がある
  • 長期的な事業承継に対応できる

リスク

  • 手数料が高額(初期費用+年数百万円以上かかることもある)
  • 中小企業の規模だと受託対象外とされる場合もある
  • 柔軟性に欠けることがある

法人受託者は「資産規模が大きく、複数世代にわたる承継を設計したい」という場合に適しています。

受益者連続信託と事業承継の実例

自社株信託の活用において、特に注目されるのが「受益者連続信託」です。これは、受益者を複数世代にわたって指定できる仕組みです。

例えば次のような設計が可能です。

  • オーナー経営者(父)が存命中は受益者
  • 父の死亡後は長男が受益者
  • 長男死亡後は孫へ受益権を移転

こうした設計により、単なる一代限りの承継にとどまらず、複数世代にわたる株式管理のルートを確保できます。

受益者連続条項で議決権を段階的に承継

「受益者連続条項」を使えば、議決権を世代ごとにコントロールできます。たとえば次のように設計すれば、株式の流出を防ぎつつ、円滑な承継を実現できます。

  • 父が議決権の指図権を保持
  • 父の死亡後は長男に移行
  • 長男死亡後は孫に自動承継

通常の遺言や贈与では「一度に移転」しかできませんが、信託を使えば「順番」を契約でコントロールできるのです。

想定Q&A:金融機関・取引先の対応

Q. 自社株が信託されていると、金融機関は融資を渋るのでは?
A. 契約内容が明確であればむしろプラス評価になる場合もあります。特に専門家や法人が受託者の場合、「株式の管理体制が安定している」と判断される傾向があります。

Q. 取引先からはどう見られる?
A. 取引先は「誰が意思決定権を持っているか」を重視します。受託者・指図権者の体制が明確なら、むしろ安心感につながります。逆に曖昧なまま承継が進むと、「内部で揉めているのでは」と不安視される可能性があります。

受託者に関する税務上の留意点と否認リスク

自社株信託は強力なツールですが、設計を誤ると税務署から否認されるリスクがあります。特に注意すべきポイントは次のとおりです。

税務否認を避けるための設計ポイント

  • 議決権の実質支配に注意:信託契約を結んでも、実質的にオーナーが引き続き支配していると判断されると、相続税評価で否認される可能性があります。
  • 配当分配の実態を伴わせる:「契約上は兄弟に配当を分けることになっているが、実際には長男しか受け取っていない」などのケースは否認対象になりやすいです。
  • 受益者指定を曖昧にしない:受益者が不明確だと、課税関係が不透明になり、税務署から突っ込まれるリスクが高まります。

顧問税理士・弁護士と連携する重要性

信託契約の設計には、民法・信託法だけでなく税法の知識が不可欠です。そのため、顧問税理士や弁護士と連携し、契約書や運用実態をきちんと整えることが必須です。

  • 税理士 → 相続税・贈与税・法人税の観点からチェック
  • 弁護士 → 契約条項の有効性や紛争リスクを確認
  • 司法書士/行政書士 → 実務面の契約作成や登記をサポート

このチーム体制を組むことで、税務否認リスクを最小限に抑えられます。

まとめ(後編)

  • 家族受託者はコストが低く信頼しやすいが、公平性に注意が必要
  • 専門家受託者は透明性が高く、外部からの信用も得やすい
  • 法人受託者は高コストだが、長期的・大規模な承継に向く
  • 受益者連続信託を使えば、複数世代にわたる議決権・配当のコントロールが可能
  • 税務リスクや金融機関対応を踏まえ、専門家と連携した設計が不可欠

事業承継を円滑かつ公平に進めるためには、受託者の選定と信託設計が成否のカギとなります。家族や専門家、法人それぞれの特徴を理解し、自社株信託を戦略的に活用することが、オーナー経営者にとって最も安全で確実な方法です。

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