「兄が認知症なんですが、このまま相続手続きはできますか?」
相続のご相談の中で、実はとても多い質問です。
結論からお伝えすると、相続人の中に認知症の方がいる場合、多くの相続手続きはその時点で止まってしまいます。
ご家族としては
「長男だから代表して進めたい」
「本人のためになる判断をするだけ」
そう思われるかもしれません。
しかし、相続は“気持ち”ではなく“法律”の世界です。
家族であっても、認知症の方の代わりに判断したり、署名したりすることは原則できません。
この記事では、
なぜ認知症になると相続が止まるのか
実際にどんな手続きを求められるのか
事前にできたはずの対策とは何か
を、司法書士の実務経験をもとに、わかりやすくお伝えします。
相続が発生すると、原則として「遺産分割協議」を行います。
これは、相続人全員で話し合い、
「誰が・何を・どれだけ相続するか」を決める手続きです。
ここで重要なのが、遺産分割協議は“法律行為”であるという点です。
法律行為には、
内容を理解する能力
自分の意思で判断する能力
が必要とされます。
認知症と診断されている場合、
「内容を正しく理解できているか」
「本当に本人の意思なのか」
が客観的に確認できません。
そのため、
👉 認知症の方は、遺産分割協議に参加することができない
という扱いになります。
「家族が代わりにサインすればいいのでは?」
「本人のためになる内容だから問題ないのでは?」
こうしたお気持ちは、非常によくわかります。
しかし、法律上はたとえ家族であっても代筆・代理はできません。
もし、認知症の相続人がいる状態で遺産分割協議書を作成し、
そのまま不動産の名義変更や銀行手続きを行った場合、
後から無効になるリスクがあります。
最悪の場合、
すでに終わったはずの相続がやり直しになる
不動産の名義を戻す必要が出てくる
家族間の信頼関係が壊れる
といった事態にもなりかねません。
相続人が認知症の場合、よく出てくるのが成年後見制度です。
成年後見制度とは、
家庭裁判所が選任した後見人が、
認知症の方に代わって法律行為を行う制度です。
この制度を利用すれば、
👉 後見人が遺産分割協議に参加することが可能になります。
ただし、ここには大きな注意点があります。
申立てに時間と手間がかかる
原則として後見人は一生つく
家族ではなく、専門職が選ばれることも多い
相続後も財産管理が続く
「相続のためだけに使う」つもりが、
その後の生活にも大きく影響する制度なのです。
実際に
「こんなはずじゃなかった」
「もっと早く知っていれば…」
という声を、私たちは何度も聞いてきました。
あるご家庭では、
お父様が亡くなり、相続人は母と兄弟2人。
そのうち、長男がすでに認知症を患っていました。
不動産は実家のみ
母が住み続ける予定
他の相続人も争うつもりはない
一見、スムーズに進みそうな相続でした。
しかし、
長男が遺産分割協議に参加できないため、
不動産の名義変更ができず、
結局、成年後見の申立てを行うことに。
相続が終わるまでに、
1年以上の時間と大きな精神的負担がかかってしまいました。
もし、お父様が生前に遺言書を作成していたら、
この相続はまったく違う形になっていました。
遺言があれば、
原則として遺産分割協議は不要
認知症の相続人がいても手続き可能
家庭裁判所の関与を減らせる
つまり、
👉 相続人が認知症になる前に遺言を残すこと
これが、最も現実的で確実な対策です。
相続のご相談で、よく聞く言葉があります。
「まだ元気だから大丈夫」
「もう少し様子を見てから」
ですが、認知症は
「ある日突然、診断がつく」ことも珍しくありません。
判断能力があるうちにしか、
遺言は作れません。
だからこそ、
“元気な今”が、実は一番の準備期間なのです。
相続人に認知症の方がいると、相続は止まる
家族でも代わりに判断することはできない
成年後見制度には大きな負担がある
遺言があれば防げた相続は多い
相続は、亡くなった後の問題ではありません。
生きている今の準備で、家族の未来が変わります。
「うちは大丈夫かな?」
そう思ったタイミングが、相談のベストタイミングです。
状況を整理するだけでも構いません。
お気軽にご相談ください。
相続や不動産・家族信託で
お困りの方お気軽にご相談ください。
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